『カードキャプターさくら』

第57話 「さくらと小狼とエレベーター」
やっぱりいいですね、この回。
さくらと小狼がお互いを名前で呼ぶようになるというようなシナリオ的な良さよりも、やっぱりこの回は演出が抜群にいいです。以降見ながらメモしたところを具体的につらつら書いてみます。


冒頭から小狼の部屋に置かれたベッド越しの固定カメラが、今回はただの演出家ではないなという雰囲気を醸し出しています(笑)。
学校でテディベア展に行こうとさくらに誘われたとき、チラシを握り締め、心臓音をSEとして鳴らすことで小狼の動揺を描いていますが、そのシーンをローアングルから嘗めるように上がっていくカメラワークが動揺を真に迫らせています。こういう地味な描写が「ああ」と素っ気無く答えるところでのカタルシスとなり、また嬉しさと困惑という小狼の心の襞を丁寧に浮き上がらせる演出となっていて、すごく好感が持てます。
全体の構成として、この回は小狼が自らの恋心がさくらに向いているということを自覚させる回となっています。そして落葉する葉と小狼の心象をシンクロさせて、セリフ無しで音楽に合わせてひたすら叩きつけるように日常描写を視聴者に見せつけつづけます。
小狼がベッドに倒れこんで携帯電話に入っていたさくらからの留守録を聞き返している最中で、唐突にアイキャッチに入るところなんてニクすぎですよ、高柳さん(笑)。
そしてBパートは冒頭から小狼のキャラクターソング「気になるアイツ」に合わせて、再び落ち葉と小狼の心象をシンクロさせて、セリフ無しでひたすら叩きつけるようにテディベア展での日常描写を見せつけます。どこか一昔前のプロモーションビデオっぽく感じてしまいますけどね(笑)。
そして小狼がエリオルにテディベアを密かに買っていたことをバラされてから、演出が一変します。ここが一番感心しているシーンなんですが、逃げるように去った小狼がエレベーターの前に立つところから乗り込んで閉じ込められるところまでのカメラアングルが、カットが変わってもずっと斜めになっているんです。閉じ込められてからは地面と平行になるので、このカメラの傾きは明らかに恣意的です。アングルがずっと斜めなので見ている側に平衡感覚を失わせて、この先に起こる恐怖をこのカメラの傾きだけで暗示するすごい演出になっています。
あとさくらがエレベーターの床に座るときにハンカチを出すシーンがあるんですが、あの作画はすごく丁寧ですね。折りたたんだハンカチを取り出すさくらとハンカチの舞う動きが丁寧に描かれていて、地味なカットですが印象的です。


とまあいろいろ思いつくままに書いてきましたが、ちょっと個人的なことを書きますと、『カードキャプターさくら』は非常に思い入れのある作品でして、語りだしたら止まりません(笑)。というのも、私がアニメの制作スタッフに興味を持つきっかけとなった作品なんですよね。ま、端的に言えば神戸守さんの存在を知ることになった思い出の作品だからなんですが(笑)。
神戸さんは自分の持ち味は地味になることとか言ってましたが、いえいえ、あなたが「演出」するとものすごく目立って一発で分かります(笑)。


何か、また第16話の「さくらと思い出の虹」が見たくなってきちゃったな。私的には神戸守ベスト演出でして、もう何回見たか分からないくらい見てます(笑)。