『風人物語』

第1話 「風猫」

私が撮ってるのは雲とね、風。
雲はね、風で変わるんだ。
だからね、雲を撮るってことはさ、風を撮るってことなんだよ。



このフィルムは冒頭のこの台詞に尽きている。
風を描くこと。
風をフィルムに収めること。
風という、姿形のないものを、2次元の世界に描くこと。
そのための画の抽象性であり、叙情性であり、それゆえのリアリズムなのだ。
圧倒的なリアリズムがこのフィルムに存在しうるのは、まさに「風を撮る」行為そのものを描いているからだ。



眼前で繰り広げられる畏怖すべきリアリズムに、私は慄然とする。