『あさっての方向。』

第1話 「願い石」
<ゼロから始められると思ったから>

とにかく冒頭から移動をし続ける被写体。
電車、自転車、歩くこと、走ること、逃げること。冒頭から強調され続けた移動というメッセージがラストシーンの雲の移動、からだと椒子の「移動」に還元される。
「何で来ちゃったんだろう」という椒子の電車内でのセリフを引用するまでもなく、椒子は画面内での「移動」を主体的に時に客体的に停止させる役割を担うことで、単調に推移しがちな移動にメリハリを与える。
そしてもう一つ興味深い主題が塩味。
しょっぱい卵焼きと、海という舞台。言うまでもなく、この塩味という主題には涙という伏線が隠れている。親を亡くした尋とからだ、尋に一方的な別れを告げられた椒子。隠蔽された涙が塩味という味覚的な感覚として内包される。
結局、「移動」という時間的、空間的な連続性を伴う行為も、「塩味」という過去と現在を繋ぐ連鎖も、人間が「ゼロから始められる」はずのないことを示唆しているわけで、導入の第1話として実に見事。


今期の作品で一番面白い(まだ2作しか見てないけど(笑))。