『フルメタル・パニック!The Second Raid』

「Scene02 水面下の情景」
素晴らしく面白かったです。
今回も演出上、私が見ていて感じたことを逐一時系列順に羅列していきます。映像を言語化するという不毛な行為のため、見難いですがご了承ください。


まずはAパートから。
最初の日常描写からやっぱり違いましたね。固定カメラで割と長めのカット割で構成されたシークエンスでした。
目覚まし時計を止めるシーンと、顔を映さず上半身の動きだけのシーン、引きで伸びをするかなめを映してからベッド脇に転落するシーン、転落して四つん這いになってカーテンを開けるまでシーンと、およそ45秒間のシークエンスで4カットということでワンカットが長めな印象。
ここまで寝起きのかなめの顔をアップショットで映さないのは山本寛氏の愛ゆえです(笑)。冗談はともかく、寝起きの女の子を撮るというのは、現実では嫌がられるはずですので、引きのショットでしかかなめの寝起きの顔を映さないのは、被写体に対するリアリズムというか誠実さみたいなものも表れていると思います。
そして直後のかなめが窓の外を見るシーンからは、対照的にカット割のテンポを早めてスピード感を出しています。更に今まで映してこなかった窓越しに映るかなめの顔を映したアップショットと、バストショットが、視聴者を動揺させます。つまり、「差し込む日光ではない光に違和感を感じている」ということをそれまでかなめの顔のアップが無かったことで、視覚的に演出しています。その違和感自体は解明されずに後の伏線に。
次のラムダドライバの説明をするシークエンスでは、カリーニンがフレームインしているときはカメラが終始傾いています。しかしテッサによる質疑応答になるとカメラの傾きが無くなります。恐らくカメラの傾きによって平衡感覚を失することで、ミスリル兵士の不安感を視聴者側と共有させようという演出であると思われます。『CCさくら』の第57話で高柳滋仁さんもこの手法で不安感を演出してました。アニメの演出における常套手段なんでしょうか。アニメ体験が絶対的に足りないので知りませんけども。
カリーニンの「私語は慎め」云々という発言のときにはとうとう画面の上下が逆転してしまいます。会議の目的であるはずの結論が出ないことを、画面の上下を逆さまにすることで視覚的に演出しています。
テッサの「ウィスパード」という発言のクチパクがフルアニメーションでした。クチパクをフルアニメにして重要なセリフを言わせるのは山本演出でよく見られます。『AIR』5話のコメンタリーでは「山本さんはフルアニメで動かすのが好きですからねー」とかイジられてましたけど(笑)。
一連のテッサのモノローグにおいて、かなめとテッサをオーバーラップ*1することで、二人が何らかの類似性を有していることを印象付けています。
機械の異常が相良の仕業だと見切って、屋上に向かって階段を登るかなめのスピードがすごい。カット割が早すぎて目で追いきれません(笑)。屋上前の扉が映るカットはわずか5コマ。コマ送り再生しないと何のカットが挿入されているのか分からなかったです(笑)。
夏玉芳と夏玉蘭がシャワーを浴びているシーンと、大きな窓をバックに抱き合うシーンもカメラが傾いています。
この辺りから、Bパート全編に渡って陣代高校とアマルガムを交互に描写しています。シナリオ段階でこういう構成にしてあったのか、演出段階で変えたのかは判然としませんが、時にシーンの日常性と非日常性とが対比的であったり、時にシーンのイメージがシンクロしたりして、劇的な効果を生んでいます。
かなめにCDを渡そうとするめがね君をトラック・バック*2でフレームインさせるシーンは面白いです。相楽視点で見ていると、めがね君が唐突に出現したような感覚を覚えます。


ここからBパート。
ゲイツのアベマリア踊りが面白いです。直前までスピード感溢れるアクションシーンを見せていたのに、ローアングルから間抜けでローテンションな踊りを見せたあと、すぐにハイテンションのかなめのカットに変わるのも画面の落差が大きくて印象的。
屋上まで逃げた変態くん(名称は植草?)の作画がノリノリですね。異様に作画のテンションが高いです。
夕陽と銃口を、夏玉芳と夏玉蘭が手を繋ぐカットと助けを求める変態くんの手を、それぞれオーバーラップで繋いでいるのも面白いですね。イメージの類似性と対比性を視覚的に繋げています。
変態くんとゲイツの変態さ加減も恣意的に対比されています。変態のベクトルが性的なもの(エロ)と猟奇的なもの(グロ)とで描き分けられているところも面白いです。小物と大物という対比でもあり、小物に手間を取られているうちに大物(本当の敵)を見逃しているということを、俯瞰からのQ.T.B*3で見せるのには唸りました。
そして冒頭のかなめの違和感の正体を最後の最後にアップショットで映すという構成上のサスペンスもあって、最後まで息をつかせない緊張感溢れる話数となっていました。


今回の演出も非常にロジカルに構成されていて密度が濃く、見ていて疲れました。や、楽しいからいいんですけど。
でも『TSR』での山本演出はScene06が最も評判いいみたいですね。むむむ、これ以上面白いのですか・・・。
楽しみです。

*1:連続するカットをダブらせてシーンを繋ぐこと。

*2:ズームバック。カメラを引くこと。

*3:クイック・トラック・バックの略。一気にカメラを引くこと。