『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)

この映画は北野作品の中で次の2つの観点から見て異質な存在。
ひとつは本編全てのカットが望遠のFIXと人物(車)フォローのみで構成されていること(多分)。
キャメラに全く演技をさせずに「映画」にしているという意味では成功だが、過度に視聴者にキャメラを意識させてしまっているという意味では失敗だろう。
もうひとつは女を描いていること。というより女に自我が存在している。
例えば、サーフボードを持ってバスに乗れなかった真木蔵人を慮って中途で下車して元来た道を走って戻ったり、ラストでツーショットの写真をサーフボードに貼り付けて海に流すなど、自我に基づいた女の行動を描いている。
何故か知らないが北野作品では女は男にとっての装飾品以上の描かれ方をほとんどされていない。
HANA-BI』は女を描いていると言うよりも女を思う漢を描いているだけで、女そのものは受動的な存在に過ぎない。しかし本作は明らかに意図的に主体的な行動を取る女を描いている。
ラストは北野武にしてはちょっと汚い。といっても汚物が写っているというわけではなく、勿論ズルいという意味だが。