『戀戀風塵』(1987)

侯孝賢
尋常ならざるファーストショットから一気に引き込まれる。美しい。
ストイックに主観ショットを排し、被写体との距離を置く。電車主観を除けば、主観ショットは一度だけ。看病に来たアフンを「見つめる」アワンの主観ショットだけが擬似的な視線の戯れを演出する。
キャメラもほとんど動かないし、ライティングも終始薄暗い。だが、徹底した傍観によって映し出されるこの叙情的な美しさは筆舌に尽くしがたい。
恋を描いていながらも、リバースショットなどの映像技法によって恋するもの同士の視線を決して交錯させないという倒錯的な潔癖さ。私たちの視線は他の誰の視線と同化して安住することなく、特権的な第三者としてそこにある(かのように見える)剥き出しの恋を見ている(ような心地さえする)。



それにしてもよく食べるなぁ。小津マンセーとして名高い侯孝賢の面目躍如?(んなわけないか)