『X 劇場版』(1996)

勿論、呪術的な陣などを用いているせいもあるだろうが、冒頭から徹底的に強調され続けるシンメトリー。
波紋、水晶、鳥居、五芒星、正四面体や円柱や球などといった結界の形、十字架など、例を挙げればキリがない。あの異様に目鼻立ちが強調された人物の顔もシンメトリーであるといっていいだろう。
また、物語で描かれる戦闘の舞台、すなわち神社の境内、東京駅、サンシャイン60、国会議事堂、東京タワーなど、全ての構造物がシンメトリーであるのは偶然ではあるまい。
更に、そうしたシンメトリーはアシメトリーによってすべて破壊される。
天であれ、地であれ、流動的に描かれる龍の存在、そしてそのモティーフとなっている北斗七星が、左右非対称であることは見落とすべきではないだろう。
中でも最も重要と思われるのが「桜」の描写である。
劇中で幾度となく舞う桜の花びらは、シンメトリーであるが、総体としての桜の木自体はアシメトリーである。部分と全体で異なる「図形」を示している桜の存在が、本作のシンボリックなイメージを体現する。
本作において、破壊され続けるのは調和を象った幾何学的なシンメトリーである。そして本作がもっている最大のカタルシスは、タイトルでもある「X」という幾何学的な記号そのものを、破壊してしまっていることである。なんと美しい破壊であろう!!



それにしても何だかなあと思うスローモーションと止め画、それと最近見慣れないせいか繰り返される点滅に眼が眩む。
とはいえ、りんたろう作品の場合、映像手法に拘って観ても仕方ないような気はするのだが。